審査委員長 | 乾 久美子 (建築家/横浜国立大学大学院教授、 乾久美子建築設計事務所 主宰) |
審査委員 | 芝田 義治 (建築家/株式会社久米設計 設計本部) |
西澤 徹夫 (建築家/西澤徹夫建築事務所 主宰) | |
岸本 暁 (日本電気硝子株式会社 常務執行役員 コンシューマーガラス事業本部 本部長) |
|
コーディネーター | 五十嵐 太郎 (建築批評家/東北大学大学院教授) |
ツルツルピカピカで均質。
これは現代社会において、一般的に想起されるガラスのイメージだろう。しかし、そうではないガラスの新しい空間を構想することはできないか?
今回のテーマは、以下のような審査員の議論をもとに決定した。例えば、工業製品のガラスは、鉄やコンクリートと同様、近現代の建築を構成する基本的な素材だが、地域と分断された素材である。だが、近年、地域のなかでマテリアルを循環させることも注目されている。ヴァナキュラーなガラスというべきか。あるいは、ガラスはコントロールできるものの象徴だが、コロナ禍において露呈したのは、コントロールできない状況と、われわれはどう向き合うか、という問題であり、国や地域によってそれぞれの対応が違うことだった。またリモート化によるコミュニケーションが普及したことで、画一的な場ではなく、あちこちでカスタマイズされた固有の場が重要になっている。
すなわち、中央のコントロールから、こぼれ落ちるもの。ローカライズに関わるこれらの考え方を縫合する言葉として、「野生のガラス」が選ばれた。一見、相容れない「野生」と「ガラス」が結びつくことによって、ほかにも様々な読みが可能なキーワードになるだろう。なお、提案はプロダクトというよりは、空間の可能性を提示して欲しい。そして鋭く批評的かつポジティブな作品を期待している。
2021年11月8日に、審査会が行われました。左から五十嵐氏、岸本氏、 乾氏、 西澤氏、芝田氏。
「野生のガラス」は多様な方向に解釈され、物質としての特性が野生的な振る舞いをする。鉱物へと戻っていく、動植物にとっての新しいタイプのハビタットを提供するなどのタイプが見られた。
ひとつめのタイプも2種類あって、ガラスがドロドロと固化した様子を野生的だと見なすものが圧倒的に多い中、最優秀賞を獲得した「ガラスのパレット」は、グラスファイバーとフロー板硝子を組み合わせた新しいタイプのガラスを想定している。透明な毛皮のようなガラスが、人に時々触られながら、呼吸するように佇んでいる姿が描かれていた。
抽象的で意外性のある課題だったからか、よせられた作品の幅が広いと感じました。
自分ならどう挑むかイメージしつつ、多くの力作に触れる中で、野生さはある程度手が加えられた環境に在ってこそその力(魅力)を発揮するのかもしれない、と改めて考えました。
カオスとコスモスの関係と同様に。入賞作品は視点こそ違えども、そのバランスに秀でていたと思います。直面する地球規模の課題を扱った作品には、共感を覚えたものも多々ありました。
建築は私たちの五感を超えた、とても大きいものだからこそ、五感を総動員しつつ想像力で補完しながら経験する必要があるし、またそのようにして設計する必要があります。
本コンペでは、自然や社会を観察した結果、ほんのちょっとした気づきから案を展開したものが多くあり、大変勇気づけられました。建築は常にそういったなんでもないようなものの総体であり、それこそが設計のとても重要な部分だと思うからです。
"野生のガラス”の解釈の仕方で様々なユニークな作品と出会うことが出来ました。
本来、画一的で静的なイメージの強いガラスに個性が与えられ、地域性や動き、変化が感じられる作品により心惹かれました。中には実現性の高い作品もあり、近い将来、そんな空間が現れたら楽しいと思います。
弊社は、今後もガラスの可能性を引き出す新しい発見を期待するとともに、受賞者の皆様方がこの受賞を足掛かりにご活躍されることを祈念いたします。
今回のテーマは、ガラスのもつ均質なイメージを覆すような提案を期待して設定した。その結果、かつてシュルレアリスムの美術家であるダリが、未来の建築は柔らかくて毛深いものになるだろうと予言したように、表面がザラザラする、もしくは小さいひだをもったような案が寄せられたように思う。
また注目すべき切り口として、時間の経過を強く意識した案も散見されたことだ。つまり、完成した瞬間ではなく、その後の変化も含めて、デザインの対象としている。コロナ禍という特殊な時間を過ごしているからなのかもしれない。