湖に浮かぶ学校。滋賀だけで続く特別な学び
滋賀県には、小学5年生になると必ず体験する“特別な学び”があります。教室を離れ、いつもと違う場所で学習や活動を行うことで、気づきや問いが次々と生まれていく——。2日間の体験は、多くの県民が大人になっても忘れない、かけがえのないものになっています。
その舞台となるのは、琵琶湖の上。学習船「うみのこ」に乗って、琵琶湖や友達、船上での生活を教科書に学ぶ「びわ湖フローティングスクール」は、“湖に浮かぶ学校”として県内で長く親しまれてきました。
日本電気硝子(NEG)も、この教育活動を支える企業のひとつ。この記事では、「うみのこ」で行われている学びの様子や、その背景にある想いを紹介します。
県民のおよそ2人に1人が卒業生!「うみのこ」が40年以上も続くワケ
びわ湖フローティングスクールは、1983年(昭和58年)に始まった滋賀県の教育事業。学習船「うみのこ」に乗って琵琶湖の上で学ぶこの取り組みは40年以上続き、これまでに乗船した5年生は64万人以上。つまり、滋賀県民のおよそ“2人に1人”が「うみのこ」を経験したことになります。親子二代で体験しているご家庭も多く、今では滋賀県の人々にとって欠かせない、特別な学びの場として受け継がれています。
また、2018年から運航している2代目「うみのこ」は、学びの場であることに加え、環境に配慮した設計も特徴です。太陽の熱を利用した温水器や太陽光パネルを搭載、燃料には軽油のほかバイオディーゼル燃料も活用されており、できるだけ環境に負荷をかけない運航が進められています。
船内には多目的室や食堂、実験室、活動室(宿泊室)、甲板(デッキ)などを設け、学習と生活がひと続きになるように設計されています。船で過ごす時間そのものが特別な体験となり、子ども達は琵琶湖や友達から多くのことを学びながら、日常とは少し違う時間を過ごします。
「びわ湖フローティングスクールがこれだけ長く続いているのは、乗船した皆さんが『いい体験だった』と言ってくださるおかげだと思います。滋賀県出身の方が県人会を作るときに“「うみのこ」会”と名付けてもらえるほど大切にされているんですよ。県内に住むすべてのお子さんに体験してほしいので、医師の先生に付き添ってもらっての乗船や、欠席した子のための航海も続けています」と話してくださったのは、びわ湖フローティングスクールの川岸所長。
船から見るさまざまな景色、生き物との出会い、友達との助け合い──五感で感じる “本物の学び”の全てが、子ども達の心に残る体験となっています。
「水はきれいなほどいい?」本物に触れた瞬間、問いが動き出す
「うみのこ」で過ごす2日間には、琵琶湖を題材にしたさまざまな学習が組み込まれています。実はそのカリキュラムは多種多様で、学校とフローティングスクールとで航海ごとに決めているのだとか。
たとえば、琵琶湖の水の「透視度調査」では、水の中に白い板を沈め、見えなくなった長さを比べます。使うのは、北湖と南湖で汲み上げた水、40年前の琵琶湖を再現した水、水道水の4つ。結果を見ると、子ども達はすぐに「水道水が一番きれい!」と声を上げます。すると先生が、子ども達に一言。「じゃあ、琵琶湖の水が全部、水道水みたいにきれいになったらいいと思う?その中に魚は住めるかな?」子ども達は少し考えて、「住めないかも」「どうしてだろう」と話し始めます。
プランクトンや魚の観察では、顕微鏡を覗きながら「いっぱいいる!」「これは何だろう?」と声が上がります。「在来魚と外来魚は背びれの形が違う」といった発見も。
湖岸でとれた砂や堆積物の観察では、琵琶湖にどんなものが流れ着いているのかを調べます。ゴミのポイ捨てやマイクロプラスチックの問題など、琵琶湖が抱える課題に目を向けるきっかけになる学習です。
「琵琶湖に浮かぶ島の展望」は、「うみのこ」ならではの体験のひとつ。同行した航海では、観光船が立ち寄らない「沖の白石」の周りをゆっくりと一周し、じっくりと見ることができました。時には「沖島」の小学校が見えるほど近くを通り、時間が合えば島の子ども達が旗を振ってくれることも。これも、湖の上を進む「うみのこ」だからこそできる交流です。
そして、「うみのこ」での学習はここで全ての答えを出すのではなく、子ども達が感じた疑問や見つけた課題を学校に持ち帰り、興味を持ったポイントを掘り下げながら、先生と一緒に学んでいくことを大切にしています。
“3つの「あ」”で大きく成長。 2日間の共同生活が子ども達を変えていく
「うみのこ」では、異なる学校の子ども達が同じ班になり、活動を共にします。船の中での約束とされているのが、「あんぜん」「あいさつ」「あとしまつ」の“3つの「あ」”。この約束を意識しながら過ごすことで、互いのことを思いやり、気持ちよく過ごすための姿勢が育っていきます。
共同生活の中で子ども達が驚くのは、シャワーに使える水の話。「うみのこ」に積める水は1航海あたり約30トン。フローティングスクールの職員が「限られた水の量を2日間みんなで大切に使います」と話すことで子ども達は「大事に使わないと」と自分ごととして考え始めます。
昼食は、航海の定番「『湖の子』カレー」。食堂が一気に笑顔でにぎわう時間です。
先生達からは、「違う学校から来た子ども達が、お互いの良いところを見習うようになる。良い刺激になっていると思います」「琵琶湖や生き物を実際に見て、予測を立てて、また実物を見て答え合わせができる。「うみのこ」だからこそできるこの体験が、子ども達にとって一番楽しいのだと思います」といった声が聞かれました。
学習を終えた子ども達は「湖の子(うみのこ)」と呼ばれ、この場所で得た経験を胸に日常へ戻っていきます。
“廃止の危機”を救ったのは、地元企業の支え
びわ湖フローティングスクールが続いてきた背景には地域企業の支えがあり、NEGもその存続に大きく関わってきました。
2000年代に県の財政難から「うみのこ」の廃止が検討された際、老朽化した船の建て替え費用が課題になっていました。そのなかで最初に大口の寄付を行ったのが、滋賀県に本社を置くNEGです。創立60周年事業として1億円を寄付したことが、事業継続の大きな後押しとなりました。
その後、滋賀県がネーミングライツパートナーを募集した際にもNEGは賛同し、2019年度から契約を開始。現在は年間200万円の支援を続けており、学習に使う備品や機材の整備など、「うみのこ」の運営に幅広く活用されています。船内の多目的室には「Negルーム」の名称がつけられ、子ども達の学びの場として使われています。
NEGがびわ湖フローティングスクールを支援する背景には、自社のCSR方針とのつながりがあります。同社は「環境」「多様性」「地域」を大切にし、次世代の育成に関わる取り組みを続けてきました。
NEGは、「琵琶湖に目を向けるきっかけになってほしい」「環境や地域について自分で考え、行動できる人に育ってほしい」という思いを大切にしながら、この活動を支えています。
びわ湖フローティングスクールは、子ども達が自然に触れ、仲間と学び合う貴重な教育活動です。NEGは、地域とともに未来をつくる企業として、これからもこの取り組みを応援していきます。