建物は“曲がる”時代へ。クールな意匠デザインを支える建材用ガラスファイバ
思わず見上げてしまう、細くて曲線的な最新の建物。
「これ、本当に大丈夫なの?」
そう感じたことがある人も多いはずです。
その謎を支えているひとつが、GRC※という、耐アルカリ性のガラスファイバで補強されたコンクリート材料です。髪の毛よりも細い“ガラスの糸”をコンクリートに混ぜ込むことで、軽くて薄い部材でも十分な強度を持たせることができ、曲面や複雑形状といったデザイン建築を可能にしています。
NEG(日本電気硝子)では、そのGRCに使用する耐アルカリガラスファイバ「WizARG®」を開発・生産しており、建築物の高層化やインフラの老朽化が進む中で、軽量化や高強度化といった新たな性能を発揮しています。
鉄筋だけでは実現が難しい形状を、どのように可能にしているのか。その秘密に迫ります。
※GRC:ガラス繊維補強コンクリート
建築を取り巻く社会的背景の変化
これらは現代の大規模建築の代表的な事例であり、NEGの耐アルカリガラスファイバを使用したコンクリートで建設されています。こうした建築を取り巻く社会的背景にも、近年大きな変化が生じています。ここでは主な変化として以下の3つを紹介します。
● 建築物の高層化、大規模化
● 老朽化インフラの更新
● 建築に求められる独自性と美しさの高まり
建築物の高層化、大規模化
世界人口の都市集中が進み、限られた都市部の土地を活かすために建物の高層化や大規模化が進んでいます(Nature)。特に1990年代から2010年代において、アジアを中心にこの傾向が顕著に見られます。
高層建築では、構造材の性能が安全性と施工効率に影響するため、従来よりも軽量かつ高強度な建材が求められるようになりました。
老朽化インフラの更新
日本では、高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が社会問題となっています。
国土交通省によると、道路橋は2040年に約75%が、トンネルは約52%が建設後50年以上経過する見込みです。インフラ設備は日本各地に存在し、定期検査などの維持管理だけでも大きなコストがかかります。
今後インフラ設備が更新・修繕されるにあたり、耐久性が高く、維持管理の負担を軽減できる建材が必要とされています。
建築に求められる独自性と美しさの高まり
近年の建設業界においては、建築物の機能面や施工性だけでなく、デザイン性と独自性も重要視されるようになっています。例えば、都市部の大規模複合施設のような建築物は、建物自体が地域のアイデンティティを表現するシンボルの役割を果たしています。
これに伴い、建築家はこれまで以上にデザイン性が求められるようになり、「形の自由さ」「軽やかさ」「素材感」「曲面デザイン」といった柔軟な設計を実現できる建材が選ばれるようになっています。
耐アルカリガラスファイバが建材に必要とされる理由
これら建築物に対するニーズの変化を受けて、耐アルカリガラスファイバが建材として注目されています。ここでは、建材の補強効果と環境負荷低減の2つの観点から解説します。
建材の補強効果
耐アルカリガラスファイバを従来の建材に混合することで、建材を補強することが可能です。主な補強効果として以下の4点が挙げられます。
1. ひび割れ防止
2. 軽量化
3. 高強度化
4. 耐久性向上(長寿命化)
1.ひび割れ防止
ひび割れは、コンクリート構造物の寿命を縮める大きな要因です。コンクリートは、圧縮には強い一方で、乾燥や温度変化によって微細なひび割れが発生するという欠点があります。
コンクリートに耐アルカリガラスファイバを混合することで、繊維状のガラスファイバがひび割れ部分を「繋ぎとめる」役割を果たし、ひびの進行を抑制します。その結果、建築物全体の耐久性が向上します。
2.軽量化
耐アルカリガラスファイバは、これまでの鉄筋や鋼材といった金属補強材に比べ、密度が低く軽い性質があります。そのため、耐アルカリガラスファイバを建材に混合することにより、金属補強材と同等の強度を維持するために必要な補強材の重量が減り、建材が軽量化します。
建材を軽量化できれば、輸送時のトラック積載量を増加させることができ、運搬回数を抑えられます。その結果、輸送コストの削減に直結するとともに、現場での荷扱いや施工負担の軽減によって作業効率の向上も期待できます。
3.高強度化
耐アルカリガラスファイバは引張強度が非常に高く、コンクリートに混合することで建材の強度を高められます。ガラスファイバが外力を分散させる「荷重分担材」として機能し、建材の曲げ強度や衝撃耐性を高めます。
4.耐久性向上(長寿命化)
耐アルカリガラスファイバは耐腐食性・耐熱性に優れるため、建材の劣化を抑制できます。また、微細な繊維が応力の集中を分散することで、建材の形状や性能を長期間維持でき、長寿命化につながります。耐アルカリガラスファイバで補強したコンクリートは、従来のコンクリートよりも初期コストが高くなる傾向がありますが、優れた耐久性から建築物の維持管理コストを低く抑えられます。
環境負荷の低減
耐アルカリガラスファイバを補強材として用いることで、部材の引張強度や曲げ耐性が向上します。これにより、従来と同等の構造性能を確保しながら必要となるコンクリート量を減らすことができ、コンクリートの主成分であるセメントの使用量を抑えることができます。
セメントは、原料である石灰石を高温で焼成する製造工程において、化学反応由来および燃料由来の二酸化炭素を大量に排出する材料です。そのため、建設分野における温室効果ガス排出の要因の一つとされています。セメント使用量を削減できれば、製造段階での二酸化炭素排出量を直接的に低減できます。
次世代の建築を可能にする素材
ガラスファイバは、軽量で高強度といった特性から、自動車部品や建材など幅広い分野で活用されています。その中でも耐アルカリガラスファイバは、次世代型都市建築において、コンクリートの補強材として採用されています。
例えば、NEGの耐アルカリガラスファイバであるWizARG®は、独特な建物の外観を形づくるうえで重要な役割を果たしています。複雑に曲線を描く建物の外装には形が一つひとつ異なっているものもあり、その際にはそれを覆うGRCもすべてが異なる形状で製造されます。WizARG®を含むGRCは、繊維による補強効果によって薄く成形しても強度を確保でき、自由度の高い曲面造形が可能になります。その結果、従来の型枠では難しかった外装デザインも実現しています。
本製品は、硬さ、柔軟性、太さなどのバリエーションが豊富で、GRCパネルからコンクリートのひび割れ防止まで様々な用途に対応しています。建材の厚みや重量を低減でき、大スパン※の天井などにも使用されます。ガラスファイバは自由度の高い構造や美しいデザインの実現を可能にします。
※大スパン:柱と柱の間隔(スパン)を広く取ることで、広々とした空間を実現する建築技術
耐アルカリガラスファイバ「WizARG®」とは
WizARG®は、ガラス成分に高濃度ジルコニアを含有することで優れた耐アルカリ性・耐酸性を実現した、コンクリート用途に適したNEG独自の耐アルカリガラスファイバです。本製品は用途に応じて以下4つの形状があります。
● チョップドストランド
● ロービング
● ネット
● ミルドファイバ
チョップドストランド
チョップドストランドは、ガラスフィラメントを束ねて短く切断した製品です。GRCや珪酸カルシウム製品の補強材として活用されています。細かい繊維状であるため、モルタルやコンクリートのひび割れ抑制にも有効です。
ロービング
ロービングは、100~200本のガラスフィラメントを束ねたストランドを数十本まとめ、円筒状に巻き取った製品です。ハンドスプレー法・量産成型設備といったGRCの製造方法に対応しており、外壁材や平板などの大面積の建材分野での使用に適しています。
ネット
ネットは、ストランドを網目状に織り上げた製品です。左官仕上げ※のモルタルやGRCなどの補強材として用いられ、ひび割れの抑制や剥落防止で効果を発揮します。
※左官仕上げ:コテなどの道具を用いて、壁や床の表面を人の手で塗り整える仕上げ方法のこと
ミルドファイバ
ミルドファイバは、本製品を長さ数十〜数百μmに粉砕したものです。優れた耐アルカリ性と耐熱性が求められる特殊塗料などにおいて、粘度調整材として活用されています。
建築の表現と耐久性を支え続ける
これまでご紹介してきた通り、NEGの耐アルカリガラスファイバ「WizARG®」は、40年以上にわたり世界各地の建築・土木分野で採用されてきました。高層建築の軽量化や橋梁・トンネル補修での耐久性向上、脱炭素・長寿命化対応など、様々な課題解決に貢献してきました。
これから街に出たとき、ぜひ見上げてみてください。曲線の外装や薄い壁面、軽やかなフォルムの建築があれば、その裏には、耐アルカリガラスファイバ「WizARG®」が働いているかもしれません。街の景観を美しく、人々の暮らしを守る素材として、NEGは見えないところで社会の未来を支え続けます。