紫外線から人工衛星を守る超薄板ガラス
――Space Tech Expo USA 2026 出展レポート
2026年6月、米国カリフォルニア州アナハイムで「Space Tech Expo USA 2026」が開催され、350を超える企業・団体が集結しました。新しい素材技術への注目度の高さを反映するように多数の部材メーカーが出展する中で、初参加のNEG(日本電気硝子)は、宇宙用超薄板カバーガラス「Starveil™(スターベイル)」を前面に打ち出し、高い関心を集めました。折り曲げられるほどの驚異的な薄さながら、過酷な宇宙空間の紫外線から人工衛星を守るStarveil™とは、どのような素材なのか。展示会での反響とともに、その可能性を紹介します。
Space Tech Expo USAへ初出展
2026年6月3〜4日、米国カリフォルニア州アナハイムで「Space Tech Expo USA 2026」が開催されました。Space Tech Expo USAはアメリカ西海岸で毎年開催される宇宙技術の展示会で、14年目を迎える今年、NEGは初のブース出展を行いました。宇宙産業の注目度が高まる中、その中心地である北米での拡販を目指しての試みでした。
この展示会は年々規模が拡大していて、今年はついに、西海岸最大の会議場であるアナハイム・コンベンションセンターでの開催となりました。出展した企業・団体は、アメリカに加え日本や韓国を含む各国から350以上、会場では70を超える講演会も。来場者は2日間で4500人を超え、ますます競争が加速して活況を呈する宇宙ビジネスの現状を反映した展示会となりました。
今回、出展企業・団体の中で大きな割合を占めたのが部材メーカーでした。宇宙ビジネスの発展には完成品だけでなく、それを支える材料・部品技術の進化が欠かせないことがうかがえます。電子機器・部品関連のメーカーが多く出展する中、NEGは特殊ガラスメーカーとして注目を集めました。NEGは、宇宙空間を想起させる濃紺のブースに一つの製品を展示。その製品とは、宇宙用超薄板カバーガラス「Starveil™」です。
朝9時の開場から夕方の終了時間まで様々なステークホルダーが行き来する中、NEGのブースにも、衛星メーカーの技術者、スタートアップ企業の経営者、研究者、部材メーカーのエンジニアや営業など、多様な人が訪れました。ブースではStarveil™の実物を展示し、超薄板のガラスでありながら、大判サイズにも対応できる点を中心に紹介しました。あわせて、ITO膜(透明導電膜)やAR膜(反射防止膜)を施したサンプルも展示し、用途に応じた加工が可能であることも伝えました。 NEGのブース担当者は、Starveil™に高い関心が向けられていることを実感したとして、こう話します。
「今回の展示では、Starveil™の薄さと、大判での提供が可能である点をアピールしました。実物を手に取って『ガラスがここまで薄くてフレキシブルになるのか』と驚かれた方が多く、皆さん、我々の説明にも熱心に耳を傾けてくださいました。質問も数多く受け、『Starveil™の役割と特長はなにか』といった一般的な内容から、『どのくらいのサイズや板厚が実現可能なのか』といった様々な特性についてもに尋ねられ、関心の高さを感じました」
では、なぜ今、Starveil™が注目を集めているのでしょうか。宇宙空間において、ガラスはどのような役割を果たすことができるのでしょうか。
なぜガラスメーカーが宇宙へ?――NEGが出展した理由
宇宙産業は、いま大きな転換期を迎えています。2025年に地球軌道へ送り出された物体は4,510個と過去最高を更新。グローバルな宇宙技術市場は2024年の4,661億米ドルから2030年には7,697億米ドルに達する見通しで(年平均成長率 9.3%)、宇宙は国家プロジェクトの領域から、民間が主役のビジネスへと舞台を移しつつあります。
その急拡大する宇宙ビジネスのなかで、人工衛星の発電量と寿命を左右する重要な部材として注目されているのが、ソーラーパネル(太陽電池)を保護する「カバーガラス」です。人工衛星のソーラーパネルは太陽光を受けて電力をつくりますが、宇宙空間では太陽光と一緒に大量の放射線・紫外線・原子状酸素が降り注ぎます。カバーガラスは、紫外線からソーラーパネルを保護し、その性能劣化を抑える役割を担います。NEGも、1980年代からカバーガラスの研究開発に取り組み、第12号科学衛星「あけぼの」への搭載をはじめ、地上や宇宙空間での試験を長年にわたって重ねてきました。人工衛星の寿命は事業の収支に直結します。それゆえに、カバーガラスは宇宙ビジネスの採算性を支える重要な部材なのです。
そのカバーガラスの分野において、今回NEGがSpace Tech Expo USA 2026で正面に据えて出展したのが、宇宙用超薄板カバーガラス「Starveil™」です。保護材として守るだけでなく、薄型・軽量のため、衛星への重量負荷の低減にも寄与するのが大きな特長です。次のセクションでは、紫外線がソーラーパネルの性能に与える影響を詳しく見ていきます。
紫外線からソーラーパネルを守る
人工衛星のソーラーパネルは、放射線・原子状酸素・温度サイクル・スペースデブリ・紫外線など、宇宙空間で様々な影響を受けます。このうち、カバーガラスが主に担うのが、紫外線からソーラーパネルを保護する役割です。
※大気のない宇宙では、ソーラーパネルが地上には届かない波長300nm以下の強い短波長紫外線にさらされます。この短波長の光は、太陽電池セルを覆う接着剤やコーティング材などの有機材料を化学的に分解し、素材を黄ばませ、着色させます。着色した層は太陽光の一部を吸収してしまうため、セルに届く光が減り、発電量が少しずつ低下していきます。宇宙には修理の手が届かないため、こうした劣化は打ち上げから寿命の終わりまで積み重なっていきます。
このような劣化を抑えるのが、Starveil™です。波長300nmの紫外線を80%遮断しつつ可視光(550nm)は92%通す設計で、太陽光は通しながら、有害な紫外線を遮ります。それにより、ソーラーパネルの発電量を長く保ち、ひいては衛星の寿命と事業の採算性を支えることにつながるのです。
カバーガラスの素材は宇宙という過酷な環境に対応するため、1980年代から改良が重ねられてきました。Starveil™は、長年にわたるカバーガラスの研究開発を通じて培った技術を生かした製品なのです。
※参考:JAXA/耐宇宙環境材料技術の研究|紫外線防護
Wiley/Solar cell UV-induced degradation or module discolouration: Between the devil and the deep yellow sea
宇宙用超薄板カバーガラス「Starveil™」の詳細
ここで、Starveil™のスペックを整理します。
| 項目 | スペック |
| 最薄板厚 | 30μm(0.03mm) ※髪の毛の直径は約0.08mm |
| 重量 | 約246g/m²(板厚100μmの場合) |
| 透過率(550nm可視光) | 92% |
| 透過率(300nm紫外線) | 20%(80%遮断) |
| 屈折率 nd | 1.52 |
| フレキシブル性 | あり(曲げ可能) |
| ガスバリア性 | 高い |
Starveil™はその薄さから折り曲げることが可能で、「硬くて脆い」というガラスの一般的なイメージを覆します。なぜここまで薄さにこだわるのでしょうか?それは、薄くするほど軽くなり、宇宙では1グラムの軽量化が事業の採算性に直結するからです。ロケットの打ち上げコストは人工衛星の質量にほぼ比例します。
近年の人工衛星設計では、発電量の軽量化指標である「電力質量比(W/kg)」の改善が重要な課題となります。米国でも、NASAのPTD-4ミッションなどを例に、軽量高出力のソーラーアレイ開発が進められています。現在の人工衛星では依然としてシリコン太陽電池やガリウムヒ素系の多接合太陽電池が主流ですが、将来的には薄膜・フレキシブル型太陽電池の活用も進むとみられます。こうした軽量化の流れの中で、超薄板のカバーガラスへの関心も高まっているのです。
NEGが宇宙産業に提供できる素材
NEGが宇宙産業に提供できる素材は、宇宙用超薄板カバーガラスにとどまりません。たとえば遠赤外線を透過するカルコゲナイドガラスは、次世代の宇宙望遠鏡のレンズに使用することができます。また、極小サイズの光学素子であるマイクロプリズムは、光衛星間通信システムの構成部品として高品質な通信の確保に貢献します。
各製品ページ
NEGの特殊ガラスが宇宙産業のインフラを支える
人工衛星のビジネスは、これからますます拡大していきます。市場調査会社Technavioによると、世界の低軌道(LEO)衛星市場規模は、2025年から2030年の5年間に年平均成長率(CAGR)24.7%で成長し、市場規模は同期間に202億6000万米ドル拡大すると予測されています。特に低軌道通信衛星の大規模コンステレーションが牽引しており、数千〜万機規模の衛星を前提とするネットワーク化が産業成長の中心になっています。
ロケットや人工衛星本体、宇宙観光といった派手な話題のかげで、過酷な宇宙環境から人工衛星のソーラーパネルを守る役割の一翼を担っているのが、折り曲げられるほどに薄い特殊ガラスです。素材が長寿命であれば人工衛星も長く働けますし、軽量であれば打ち上げ時の重量負担を抑えることができます。素材の進化は、宇宙ビジネスの採算性と成長スピードを支える要素のひとつとして、その重要性を増しています。
「Space Tech Expo USA 2026では、想定よりも多くの方に足を止めていただくことができました。当社ブースへの訪問を目的の1つに来場されたという方もおられました」(NEGブース担当者)
NEGはガラスメーカーとして、宇宙用超薄板カバーガラスStarveil™を中核に据えながら、赤外線透過ガラスやマイクロプリズム、そして長年にわたり特殊ガラスを開発し続けてきた技術の蓄積を生かし、宇宙産業のサプライチェーンを素材の側から支えていきます。Space Tech Expo USA 2026への出展をきっかけに、NEGの宇宙産業への挑戦はさらに広がっていきます。
ライター:近藤雄生
旅、科学、ノンフィクション等の分野で執筆するライター。東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業、同大大学院修士課程を修了。2003年から2008年の約5年半にわたって海外各国を転々としながらライターとして活動。現在は主に工学系・物理系の研究者を取材してサイエンス系記事を書くことが多い。宇宙分野の取材・執筆も多数。著書に『旅に出よう』『遊牧夫婦』『吃音 伝えられないもどかしさ』『オオカミと野生のイヌ』『いたみを抱えた人の話を聞く』(共著)など。理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。
【関連プレスリリース】
・宇宙用超薄板カバーガラスの製品ブランド「Starveil™」を立ち上げ(2026年5月20日)
【関連ページ】
・航空宇宙ソリューション