特殊ガラスで世界をリードする~ 日本電気硝子の素顔~
「ガラス」と言えば何を思い浮かべますか?窓ですか?それともビンや食器?
誰もが知る「ガラス」ですが、普段ガラスに抱くイメージとはまったく異なる「特殊ガラス」という存在をご存じでしょうか?
ガラスなのに、紙よりも薄く、しなやかに曲げたり巻いたりできる。毛髪よりも細いガラスの糸になって、自動車部材や建築材料の強化に使われる…。知れば知るほど驚く、「特殊」な形状や性質、機能を持つ「特殊ガラス」。本記事では、そのような特殊ガラスのリーディングカンパニー、日本電気硝子株式会社(略称“NEG”)をご紹介します。
「ガラスの持つ無限の可能性」を追求する日本電気硝子
人類の進歩に寄り添うガラス
そもそもガラスの起源がいつかは明確ではないものの、はるか昔、紀元前4500年前にまで遡り、古代オリエントで作られたと考えられています。日本でも、弥生時代には渡来したガラスを加工していました(日本硝子製品工業会HPより)。
「7000年の歴史をもつ素材」として、人類の進歩に寄り添い続けるガラスですが、現代社会や産業の発展を支える素材として、他にはない特徴があります。
-
この世に存在するほとんどの元素をガラスの中に取りこむことができ、それによって様々な特性を付与できる
-
溶融・成形・加工の各プロセスを経て、多様なニーズに対応した機能や特性、形状をガラスに与えられる
特殊ガラスの誕生
古代から装飾品や容器、窓などに用いられてきたガラスですが、やがて産業や科学技術の革新に伴って、急速な進展を遂げていきました。そして、現在では、高度化する社会や産業のニーズに対応し、特殊な形状や特性、機能を有する「特殊ガラス」の分野が拡大しています。
そこには、ガラスに抱く「透明」「硬い」「重い」「割れる」といったイメージとは異なる世界が広がり、耐熱性や強度その他の諸特性に優れ、形状も管・板・シート・ロール・繊維・粉末・ペースト・球・レンズ・プリズムなど実に多岐にわたります。また大きさも、太さ数µmのガラスファイバから、1辺が3mを超えるディスプレイ用基板ガラスまで、非常にバリエーションに富んでいます。
今や「特殊ガラス」の活躍の場は、ディスプレイデバイスをはじめ、情報通信や半導体、自動車、医療、エネルギー、建築、家電・住設、社会インフラ、さらには宇宙空間にも及び、まさに無限大といえます。
特殊ガラスによって、社会や生活をより快適に、豊かにしたい。この志のもと、「ガラスの持つ無限の可能性」を追求し、特殊ガラスのモノづくりに邁進する世界的トップメーカーが、日本電気硝子株式会社(NEG)です。
琵琶湖発の世界企業! NEGが特殊ガラスのリーディングカンパニーである理由
NEGは滋賀県大津市の琵琶湖のほとりに本社を構え、世界中の客先へさまざまな特殊ガラスを提供しています。
これまでNEGが生み出した特殊ガラス製品は何百種類以上にも及び、常にグローバルのニーズに応えてきました。それを支えたNEGの力の源泉はどこにあるのでしょうか。
NEGのモノづくり
NEGは、材料設計から溶融・成形・加工、評価に至る幅広いガラスの技術を長年にわたり育み、それを設備の中に蓄積しつつ、新たな応用技術の開発を行ってきました。これらの技術がユニークで高機能なガラスを生み出し、時代や社会のニーズに応えています。
また、NEGのモノづくりを支えるのが、「”文明の産物”といえるものを手掛けよ」という理念です。”文明の産物”とは、時間の経過が我々に味方してくれるもの、文明の進歩とともに伸びていくものを指します。
これらを背景に、世の中が求める”こんなガラスがあったらいいな“という機能を創出し、文明の産物の実現に寄与できることを常に考えています。文明の進歩が求める機能は時代とともに変化していきますが、我々が開発した特殊ガラスがそれを満たし、人々の生活をより豊かにすることを目指しています。
日本電気硝子(NEG)の歴史を辿って
創業期
NEGの歴史は、1944年に日本電気(株)などの出資により設立、1949年に分離独立したことに始まります。
当初は真空管用ガラスや管ガラスを手吹きで生産していましたが、1951年に自動成形に成功、1956年にはタンク炉による連続生産に移行し、事業発展の基盤を築きました。
CRTの時代
1965年、ブラウン管(CRT)用ガラス事業に進出。以来、ブラウン管産業の発展とともに歩み、当社の中核をなす事業へと発展していきました。前後して結晶化ガラスや建築用ガラス、電子デバイス用ガラス、液晶ディスプレイ(LCD)用ガラスやガラスファイバなど多くの事業を立ち上げ、世界有数の特殊ガラスメーカーへと成長しました。
FPDへの転換
1990年代後半以降、ブラウン管に代わり台頭した、LCDに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)の急成長に応えるため、2000年より新たな製法(オーバーフロー法)によるLCD用基板ガラスの生産を開始しました。その後も基板の大型化や高品質化など、年々高度化する市場の要求に対応してきました。
今では大型テレビやパソコン、スマートフォンをはじめ、車載ディスプレイやデジタルサイネージなど広範な分野・用途に用いられるLCDならびに有機EL(OLED)ディスプレイに使用され、世界トップ3のシェアを有します。また、この製造技術をもとに、超薄板ガラスや化学強化専用ガラスが生み出されています。
新たな成長軸
2010年代に入ると、米PPG社から欧米のガラスファイバ事業を買収、複合材事業はディスプレイ事業とともに当社の二大事業になりました。
さらなる成長を目指して
2020年代にあっても、既存事業に加え、ゼロ膨張ガラスや5G関連製品、宝飾ガラス、全固体ナトリウムイオン二次電池、次世代半導体パッケージ向けガラスセラミックスコア基板など、次々にユニークな特殊ガラス製品を開発しています。
さらに2024年には、新たな中期経営計画「EGP2028」を策定し、持続的な成長と企業価値向上を目指しています。
NEGが切り拓くガラスの未来と可能性
~これもガラスなの?!常識を破る特殊ガラス~
それではNEGが生み出してきた、特殊ガラスの世界の一端をご紹介します。70年以上にわたるNEGの歴史の中で蓄積された技術力から生まれた、ユニークで画期的な製品です。
コピー用紙よりも薄いガラスや、リボン状の極薄ガラス
まず見て驚いていただきたいのが、フィルム状のガラス「G-Leaf®」。NEGの技術によって、コピー用紙の3分の1の厚さ0.025mm(25μm)にまで薄くすることが可能に。ガラスの優れた機能と信頼性はそのままに、ガラスをフィルム化することを実現しました。エレクトロニクス、エネルギー、医療、照明などの分野への次世代材料として期待されています。
まるでリボンのような「ガラスリボン」。厚さはわずか4µm。薄くて軽く、曲げに強い、とてもしなやかな外観と、耐熱性や耐久性、水や空気を通さないガスバリア性、薬品などに対する化学的安定性など、ガラス特有の特性を持ちあわせた優秀な製品です。
スマホを守る Dinorex® 、フォルダブルディスプレイにも対応したDinorex® UTG
こちらは、スマートフォンやタブレットをはじめ、車載ディスプレイやメータークラスターパネルのカバーガラスなどに使われている化学強化専用ガラス「Dinorex®」。ディスプレイ画面を傷や衝撃から保護する強じん性を有します。
Dinorex®がさらに進化、フォルダブルディスプレイにも対応できる、厚さ25㎛の化学強化専用ガラス「Dinorex® UTG」。高い表面平滑性と優れた曲げ特性によって、直径3mmの折り曲げが可能です。
宇宙に飛び出すNEGの特殊ガラス
宇宙産業でもNEGの特殊ガラスが活躍しています。こちらは人工衛星ソーラーパネル用超薄板カバーガラス。宇宙空間の紫外線による太陽電池の部材劣化低減や太陽電池の軽量化を実現します。
ガラスで作った全固体電池! EVから宇宙や深海まで、いま注目の技術
ガラスの無限の可能性と地球に優しいガラスのモノづくりの双方を追求するNEGは、時代が求める最先端の電池を、特殊ガラスを用いて開発しました。その名は「オール酸化物全固体ナトリウム(Na)イオン二次電池」(NIB)。
当社が手掛けるNIBは、正極、負極、固体電解質のすべてが「安定した酸化物」により構成され、これらが当社独自の結晶化ガラス技術により強固に一体化した電池です。過酷な環境下(-40℃〜200℃)でも作動し、発⽕や有毒ガス発生のリスクがなく、また資源確保への懸念を要しない材料(ナトリウム)を用いた革新的な全固体電池です。
今注目の半導体に欠かせない特殊ガラス技術
次世代の半導体デバイスにも特殊ガラスの活躍が期待されます(関連製品)。
データセンターの需要の高まりや生成AIの普及などによるデータ通信量の増大に伴って、ITインフラを支える半導体には一層の高性能化・低消費電力化が求められます。
半導体の性能向上には回路の微細化や、複数の半導体チップを1つのコア基板上に高密度実装し処理速度を向上させる技術、基板の大型化への対応が不可欠です。しかし、これまでの樹脂製コア基板では微細化が困難でした。また複数の半導体チップを搭載した場合や基板を大きくした場合に基板が変形するという課題がありました。
このため、次世代の材料として、電気的特性や剛性、平坦性などに優れるガラスを用いたコア基板の開発が進んでいます。
NEG が開発した「GCコア™」は、ガラス粉末とセラミックス粉末の複合材を用いたコア基板です。ガラスコア基板の特性に加えて変形しにくく、クラックが入りにくいセラミックスの特性を持つため、高速でクラックレスの微細な貫通穴(ビア)加工が容易という特長を合わせ持つ新素材です。
コンクリートから高機能樹脂まで、強化・軽量化するガラスファイバ
「ガラスファイバ」は、電気絶縁性に優れた「Eガラスファイバ」が、高機能樹脂やその他のプラスチックの補強材料として自動車やエレクトロニクス機器、住設機器などに使われており、アルカリ性に強い「WizARG™」が、コンクリート製品の補強材として建築・土木の幅広い分野で用いられています。
自動車の省コスト化に役立つ「Eファイバ」
Eファイバが使用される代表例が自動車。自動車はもともと多くの金属部品で構成されていましたが、現在は生産工程の簡素化や燃費、安全性、環境性能の向上要求が高まり、軽い樹脂を使った部品・部材のモジュール化が進んでいます。樹脂が金属に匹敵する強度を持つのは、ガラスファイバを強化材として使っているから。
また、樹脂は複雑な形状の部品でも効率的に生産することができるので、天井材やドアモジュールといった内装部品のほか、エンジンルーム内のいろいろな部材などに使用され、燃費の向上や生産工程の簡素化による省コストに貢献しています。
自動車の「電動化」が急テンポで進む中、今後もガラスファイバで強化された部品・部材の使用拡大が期待されます。
建物全体を軽量化できる「WizARG™」
WizARG™は、コンクリート製品の補強材として使われている酸・アルカリ性に強いガラスファイバ。鉄筋で強化されたコンクリート製品と違って腐蝕の心配が無く、部材全体に均一に分散し補強するため、部材の厚みを大幅に薄くでき、建物全体を軽量化できます。
WizARG™で強化した「GRC(ガラス繊維補強コンクリート)」の特長は、複雑なデザインも型枠を用いて工場で生産、モジュール化することで取付工事も容易にできること。強くて軽量、豊かなデザイン性が実現できるため、建築の可能性が広がります。
身近な生活シーンで活躍する結晶化ガラス
ご家庭の生活シーンに寄り添うNEGの製品。例えば「ガラスに熱湯を注いで割れてしまった」という経験はありませんか?そんな「ガラスは急激な温度変化に弱い」という常識を覆すのが、NEGの「超耐熱結晶化ガラス」。直火で加熱して水をかけても割れないほど、急熱急冷に強い特殊ガラスです。
例えば、NEGの超耐熱結晶化ガラスは、IHクッキングヒーターやガス調理器のトッププレート、薪ストーブや暖炉の前面窓などの身近なものから、火災の拡大や延焼を防ぐ防火ガラスに使われています。
~国内シェア60%超!あなたのキッチンにある調理器のトッププレートもNEG製では?~
IHクッキングヒーターやガス調理器のトッププレートに使われ、国内シェア60%超*を誇る「StellaShine®」。800℃に熱した直後に冷水をかけても割れないほど熱衝撃性に優れ、繰り返しの加熱に対する耐性も兼ね備えたガラスです。環境負荷物質を一切使用しない、エコフレンドリーなガラスです。
*2023年日本国内のビルトインタイプ調理器に使われたガラストッププレートのシェア 当社調べ
また、周囲の温度変化に対して伸び縮みすることがない熱膨張係数がゼロのガラス「ZERØ®(ゼロ)」は、シビアな精密さや寸法安定性が要求される光通信や精密機器分野での利用に加えて、航空宇宙分野へも活躍の場を広げようとしています。
ガラスは防災の要。安心安全のファイアライト®
NEGの「ファイアライト®」は、私たちを火災から守る耐熱結晶化ガラス。火災時の高熱と、消火活動時の放水による急冷でも破壊しない強さを持ち、金網が入らないクリアな視界もメリットになっています。日本よりも厳しいアメリカのUL規格(製品安全規格)に適合するなど、実力は折紙付きです。
また、2枚のファイアライト®の間に特殊樹脂を挟み込んで貼りあわせた「ファイアライトプラス®ネオ」は、ファイアライト®の優れた「耐熱衝撃性」に加えて、人や物の衝突、あるいは地震の発生などで万が一破損しても、ガラス片の飛散・脱落の心配がほとんどない「衝撃安全性」を兼ね備えた唯一の特定防火設備用ガラス。生徒たちがアクティブに体を動かす学校や、多くの人が集まる駅ターミナルや公共施設などに最適なガラスです。
人々の健康を支える医療用ガラス
医療現場においても特殊ガラスは欠かせません。NEGは、アンプルやバイアル、注射筒などに使用される医薬用管ガラスや、医療従事者を放射線被ばくから護る放射線遮蔽用ガラスを供給し、医療の高度化や安全性の向上に貢献しています。
NEGが描き出すこれからの特殊ガラスの世界は?!
本記事では、めくるめく特殊ガラスの世界をほんの少しご紹介しました。いつの時代も、時代のニーズに応える特殊ガラスを世界に届けてきたNEG。社会や人々の未来を支えるため、これからもガラスの持つ「無限の可能性」を追求していきます。
NEGのWebサイトでは、製品情報はもちろん、ガラスの歴史をわかりやすく説明するコンテンツや、特殊ガラスを想い未来のために邁進するNEG社員たちの活躍を描いた「ガラス人ストーリーズ」なども公開しています。ぜひあなたも特殊ガラスの世界に触れてみませんか?