超薄板ガラスが切り拓く設計の新常識
「もっと性能を上げたいが、材料は簡単には変えられない」
フレキシブル設計において、そんなジレンマを抱える設計者は少なくありません。柔軟性を優先すれば、他の性能を妥協する。その前提に新たな選択肢が加わりつつあります。フィルムのように曲げることができる上、強度や耐熱性、長期信頼性に優れた超薄板ガラスです。
NEG(日本電気硝子)は1974年から超薄板ガラスの研究を続け、世界に先駆けて厚さ50μm、25μmと薄型化・量産化を実現してきました。オーバーフロー法の最適化と独自技術により、品質と安定供給体制を確立しています。
超薄板ガラスは、最新の折りたたみスマートフォンのディスプレイや、ペロブスカイト太陽電池、スピーカーの振動板など幅広く活用されています。さらに、宇宙・医療分野の先端技術でも採用が進む次世代型の材料と言われています。
本記事では「樹脂材料の限界を感じている」「新しい材料を探している」設計者に向けて、超薄板ガラスを使用するメリットを整理しました。
自社の設計にどう活かせるか、その判断材料としてご参考ください。
1|フレキシブル設計でぶつかる材料の壁
ウェアラブル端末や曲面ディスプレイをはじめ、製品の形は大きく変わりました。しかし「材料が性能向上のボトルネックになっている」と壁にぶつかる設計者も多いのではないでしょうか。
従来のフレキシブル設計では、耐久性よりも曲げやすさを優先していたため、樹脂フィルムを使うのが一般的でした。ここでいう耐久性とは、単に割れにくいことだけではありません。傷や摩耗、繰り返し屈曲に対する物理的耐性、紫外線劣化や耐腐食性などの化学的耐性を含みます。
ディスプレイや電子部品の製造では数百℃に達する高温工程があり、耐熱性の低い樹脂フィルムでは加工条件に制約が生じるケースがありました。有機ELや太陽電池などのデバイスに求められる性能はますます高まり、設計や製造工程が複雑化しています。
こうした課題を解決する次世代材料として、超薄板ガラスが注目されるようになりました。
>>超薄板ガラスの誕生ストーリー
2|『超薄板ガラス』を選択するメリット
「ガラスは硬くて割れやすい」
これまでの常識は、超薄板ガラスの登場で一変します。紙の領域にまで薄く成形した超薄板ガラスは、樹脂フィルムのように扱うことができるようになりました。高い表面硬度や耐熱性、ガスバリア性などガラス本来の特性を維持したまま、曲げることができるようになったのです。
外観品質|表面硬度・耐摩耗性
超薄板ガラスの表面硬度(ビッカース硬度)は約600HVで、一般的な樹脂フィルムの数十HVと比べて高いため、擦り傷や摩耗に対して優れた耐性を持ちます。表面平滑性や透明性も高いため、美しさと高級感が求められるディスプレイやカバー材に適しています。
※ビッカース硬度(HV)は、ダイヤモンドの正四角錐圧子を金属やセラミックスに押し込み、そのくぼみの面積から算出する硬さの尺度です。単位はHVで、値が大きいほど硬く、物質の品質管理、表面処理の評価、微小領域の測定(マイクロビッカース)に用いられます。
工程安定性|耐熱性・寸法安定性
高温成膜や熱処理工程では、数百℃に達するケースもあります。一般的な樹脂フィルムは150〜200℃付近で軟化や収縮が始まり、寸法変化や反りが課題になります。一方、ガラスの耐熱性の指標となる歪点は650℃と高く、熱による寸法変化が小さいため、加工精度の向上と歩留まりの安定化につながります。
長期信頼性|ガスバリア性
樹脂は分子構造上、水分や酸素を完全に遮断することが難しく、WVTR(透湿度)やOTR(酸素透過率)の観点でバリア層の追加が必要になります。一方、ガラスは無機材料であるため、理論上ほぼゼロに近いガス透過率を持ちます。そのため、有機ELや太陽電池の寿命設計において、封止構造をシンプルにできる可能性があります。
無機材料であるガラスは、外部環境や時間の影響を受けにくいという本質的な強さを持っています。
そんな超薄板ガラスの活用シーンを具体的に見てみましょう。
3|用途別に見る超薄板ガラスの活用シーン
3-1|設計の自由度を高めたい
「曲面設計が増え、材料が制約になっていませんか」
近年の製品設計は曲面形状が一般的になりました。車載インパネに沿う湾曲ディスプレイ、エッジまで表示領域を広げた端末、薄型・軽量化を追求したフレキシブル基板など、形状の自由度が製品価値につながる時代と言えます。
「高温成膜後の寸法、歩留まりが安定しない」
「バリア層の形成で構造が複雑化する」
樹脂フィルムにはこのような制約条件があるため、その対策はどうしても後手になりがちです。超薄板ガラスを使えば、設計の出発点が変わります。G-Leaf®はガラスの優れた機能と信頼性をそのままにフィルム化を実現しました。
高い耐熱性や寸法安定性、バリア性を前提条件として設計できるため、熱処理や積層構成を「あとから調整する」のではなく、シンプルな構成で組み立てることができます。ロールtoロール方式による高品質フレキシブルデザインの量産にも対応しています。
>>G-Leaf®の詳細
3-2|強さとしなやかさを両立させたい
「表面強度か耐久性。どちらかを妥協していませんか」
折りたたみスマートフォンに代表されるフォルダブル端末では、表示画面としての品質だけでなく、繰り返しの開閉動作に耐える必要があります。柔軟性を優先すれば表面硬度が不足し、硬さを優先すれば曲げに耐えられない。このトレードオフは、折りたたみデバイス開発における大きな壁でした。
この課題を解決したのがDinorex UTG®です。薄く成形されたガラスに化学強化処理を施し、地面に落としても簡単に割れない強度と、20万回の折り曲げに耐える屈曲性能を同時に実現しました。閉じるときにはしなやかに曲がり、開いたときには硬質なカバーガラスとして機能します。
高い性能と品質が評価され、海外メーカーのモトローラ社やXiaomi社、HONOR社の新型フォルダブルスマートフォンに採用、さらに広がりを見せています。
>>Dinorex UTG®の詳細
3-3|意匠性も安全性も確保したい
家電製品の操作パネルや照明機器、インテリアなど人の手が直接触れるモノには、質感や透明感といった意匠性が重視されます。ガラスの持つシャープな質感は商品のデザインを引き立てるアクセントとなるため、好んで使われてきました。
一方で生活に密着した商品は、破損時に破片が飛散しないことや、長期使用における耐久性も同時に満たす必要があります。こうしたニーズにお応えするために開発したのがLamion™です。
ガラスは高い透明性と硬質な質感を備えますが、破損時は怪我など安全性に対する不安が残ります。樹脂フィルムは飛散リスクを抑えられるものの、表面硬度や経年劣化の面で課題が残ります。
超薄板ガラスと樹脂フィルムを組み合わせた積層素材Lamion™は、表面はガラスのため、耐傷性や透明感を維持しながら、裏打ちされたフィルムによって破損時の飛散を抑制します。
構成や配合を細かく調整でき、用途に応じたカスタマイズ設計も可能です。
>>Lamion™の詳細
3-4|紫外線を長期間遮断したい
「材料の紫外線劣化にお困りではないですか」
精密光学機器や医療機器、太陽電池や宇宙用途など、紫外線の影響が製品性能に直結する分野があります。従来、紫外線吸収材を含んだ樹脂を使用する場合、分子鎖が分裂するため、長期使用で劣化するという課題がありました。
宇宙用超薄板カバーガラス Starveil™は組成設計により紫外線遮蔽特性を持たせながら、ガラス本来の耐熱性や寸法安定性を維持することができます (※組成設計とは様々な無機物を配合するレシピのこと)。人工衛星カバーガラスの初代モデルは、1989年に日本の人工衛星あけぼのに採用されました。現在も宇宙関連のプロジェクトが進行中です。
紫外線を吸収する元素が無機物なので、材料の劣化を抑え、長期にわたり安定した性能を維持できます。部品の高性能・薄型化が求められる中で、安定して性能を発揮する長期信頼性は重要度を増しています。特に紫外線は目に見えないため、材料選定が長期的なパフォーマンスを決定づける鍵と言えます。
>>Starveil™の詳細
3-5|音響品質を高めたい
ガラスは音とも深い関係があります。
スピーカーやイヤホンの音質は、アンプや回路設計だけで決まるものではなく、物理的に空気を振動させる振動板の材料特性が大きく影響しています。この振動板の素材には紙、樹脂、金属が使われていますが、「ガラスを使う」という選択に近年注目が集まっています。
ガラスは薄くできるため軽量化しやすく、剛性が高い上、振動の応答速度が速く、また減衰も速いため、歪みを抑えたクリアな音を再現するための条件を揃えています。この超薄板ガラスで作られたSonarion™振動板の製造技術は高く評価され、世界的に有名なSEAS社、SIVGA社、マークオーディオ社など高級オーディオメーカーへの採用が進んでいます。
ガラスは工夫次第で既存材料の代替となり得る可能性を秘めています。
「ガラスで作るとどんな変化が起きるのか」
材料の観点から再検討してみてはいかがでしょうか。
>>Sonarion™振動板の詳細
4|NEGは特殊ガラスの開発で技術を支えています
超薄板ガラスは設計に選択肢と自由度をもたらしました。これまでのフレキシブル設計では樹脂フィルムを使用することで、多くの制約を受けていました。表面硬度や耐摩耗性、耐熱性や寸法安定性、そして高いガスバリア性といったガラス本来の特性とフィルムのようなしなやかさを併せ持つ新しい材料、それが超薄板ガラスです。
選択肢が一つ増えるだけで、設計の考え方は少し自由になります。NEGが1974年に超薄板ガラスの研究に着手してから半世紀が経ちます。技術者たちの熱意と執念がこの素材を生み出したのは事実ですが、私たちは単にできあがった素材を売る会社でありたいとは考えていません。
「どうすればお客様の課題を解決できるか」を問い続けてきました。ニーズを汲み取り、必要であればゼロから課題解決に取り組む。その姿勢を大切にしています。
次々に生まれる製品や技術は目に見えるモノだけでなく、材料によって支えられています。見えない材料領域から製品の進化を影で支えることが私たちの使命です。
まずは自社分野の可能性から情報交換を始めてみませんか。