幅広い光の波長域の透過率を制御したガラスの開発
遷移金属元素などを添加して吸収波長と吸光度を調整することにより、光透過特性を制御できることもガラスの優れた特長です。不純物がきわめて少ないガラスは可視光をほとんど吸収せず、優れた光透過特性を持ち、光学機器や映像機器の分野で活躍しています。
可視光よりも短い波長の光には、紫外線、X線、γ線など、長い波長の光には赤外線や電波などがあります。当社は、それらの透過・吸収を制御した機能性ガラスを開発し、提供しています。病院のレントゲン室などで使われる放射線遮蔽ガラス、殺菌ランプ用の紫外線透過ガラスやナイトビジョン用の赤外線透過ガラスは、可視域以外の光透過特性を制御したガラスの例として挙げられます。
電磁波放射線(X線、γ線) | 紫外線 | 可視光線 | 赤外線 |
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電磁波放射線(X線、γ線)遮蔽ガラス
X線やγ線などの放射線は、レントゲン撮影やCTスキャンなど、医療分野で幅広く利用されています。しかし、一度に多量の放射線を浴びると、放射線によって傷ついた細胞を十分に修復することができなくなり、人体に影響が出てしまいます。放射線防護には鉛による遮蔽が効果が大きいことが知られていますが、医療現場などでは治療室(線源側)の状況を目視確認する必要があることから、優れた遮蔽性能と高い可視光透過率を併せ持つ酸化鉛の含有率が高いガラスが放射線遮蔽ガラスとして使用されています。
当社の放射線遮蔽用鉛ガラス:LX-57Bは、放射線遮蔽性能に優れ、医療用や工業用、研究所用、さらには原子力産業用と、幅広い分野で使用され、高い評価を得ています。X線テレビ室やCT室、アンギオ室などの監視・操作窓に大型サイズのLX-57Bを使うことで、視野が広がり、操作性の向上に大きく寄与しています。
また、一般医療用X線よりも透過能が高いγ線が使用されるPET診療に対応するためには、防護ガラスにもより高い遮蔽性能が求められます。この要求に対応するガラスが、酸化鉛含有率約70%のγ線遮蔽用鉛ガラス:Pro-GR®です。
このように、当社ではガラス組成を調整することで、用途に応じた放射線遮蔽ガラスを開発・提供しています。ガラスの優れた放射線遮蔽性能が医療従事者を放射線被ばくから防護し、高い透視性により正確で迅速な診断に寄与することで、当社は「安心」と「快適性」を求める医療現場の声に応えています。
紫外線を制御したガラス
紫外線は10~400nmの波長域の光に相当します。およそ100~280nmの波長域をUV-C、280~315nmの波長域をUV-B、315~400nmの波長域をUV-Aと分類します。また、200nmよりも短い波長域を真空紫外域と呼びます。それぞれの波長域の光には、オゾン生成、殺菌作用や光化学反応などの作用があります。
当社では、ガラス組成を調整することで、紫外線の透過・吸収を制御した機能性ガラスを開発し、提供しています。例えば、茶褐色医薬容器用ガラス:BS-Aは、紫外線を遮蔽することで、容器内の物質の紫外線による劣化や変質を防ぎます。また、UV-C~UV-Bの波長域において高い紫外線遮蔽性能を有する、紫外線遮蔽 超薄板ガラス:BDX-2は、ペロブスカイト太陽電池や人工衛星用の太陽電池などのカバーに用いられ、デバイスを紫外線から保護し、長寿命化に貢献します。他にも、UV-C高透過管ガラス:BU-41は、UV照明やUV冷陰極管、UV光センサーなど、ウイルスの殺菌や紫外線測定の分野で使用されています。
可視光線を制御したガラス
可視光線とは、人間の目に光として感じる波長域の電磁波であり、JIS Z8120の定義によれば、可視光線に相当する電磁波の波長の下限はおよそ360-400 nm、上限はおよそ760-830 nmとなります。ガラスに遷移金属元素などを添加し、吸収波長と吸光度を調整することにより光透過特性を制御できることもガラスの優れた特長です。
古代からさまざまな色のガラスが装飾用に開発されてきましたが、現在、ガラスは光の透過特性を精密に制御する光学フィルターとしても利用されています。照明用管ガラス:PS-94NAは、自動車の方向指示器ランプに使用されています。ガラス自体が橙色のため、ランプ加工後の着色が不要です。また、不純物がきわめて少ない含まないガラスは、可視光をほとんど吸収せず、優れた光透過特性を持ち、光学機器や映像機器の分野で活躍しています。広い視野角を提供するAR/MR用高屈折率ガラスは、明るく鮮明な画像を実現するために高透過率になるよう設計されています。他にも、当社は電子部品用にさまざまな特性を持つ高透過率の板ガラスを取り揃えており、電子部品用板ガラス(BDA)は高画素化が進むイメージセンサに使用されています。
赤外線を制御したガラス
赤外線とは、目に見えませんすべての物体から放射されている 780nm~100μmの波長域の電磁波です。赤外線による加熱がよく行われるため、熱線とも呼ばれます。絶対零度以上の物体からの放射量は物体の温度と相関があります。赤外線は波長の長さによって、近赤外線(750~2500nm)、中赤外線(2500~4000nm)、遠赤外線(4000nm~)と名付けられています。
当社では、ガラス組成を調整することで、赤外線の透過・吸収を制御した機能性ガラスを開発し、提供しています。例えば、中赤外線・遠赤外線波長域において優れた赤外線透過機能を持つカルコゲナイドガラス(FI-02)は、サーマルイメージングやグレーティング、量子カスケードレーザー用レンズ、ATRプリズムなどに用いられています。一方、優れた赤外線吸収性能を持つ赤外線吸収フィルター(800EXL)は、レンズ交換式カメラやビデオカメラ、監視カメラ、スマートフォンなどの赤外線吸収フィルターとして用いられています。
また、リードスイッチに用いられる赤外線高吸収管ガラス(STI、SRI、SHI)は、ガラスに高い赤外線吸収性能を持たせることで、ハロゲンランプやレーザーなどでの局所加熱による封着を可能にしています。