さまざまな分野の先端技術が投入され、「完全自動運転」を目指して進化する自動車。 その随所に、ガラスが生み出すソリューション。
人がハンドルを握り、金属製エンジンの力で走る。そんな自動車の常識が劇的に変化しています。
電気自動車(EV)、水素自動車(FCV)の開発競争が進み、エレクトロニクスやICT(情報通信技術)とも融合する。2020年までに高速道路での自動走行を実現させる具体的な施策を政府が打ち出すなど、「完全自動運転」も夢の話ではなくなりました。より安全、便利、快適に。環境性能も高めながら、自動車はまったく新しい時代に進んでいます。
そうした動きの中で、ガラスは無くてはならない極めて重要な役割を果たしています。フロントガラスなどの窓ガラスから、各種の電子部品や構造部材などへ、現在では、見えないところで多種多様な特殊ガラスが活躍しています。日本電気硝子は、古くからエンジンの点火プラグ内の封止材料として粉末ガラスやウィンカーランプ用の着色管ガラスを供給しており、自動車に関わりを持ってきました。今、特殊ガラスのエキスパートとして、ガラスの特性を生かした先進的な取り組みで自動車の進化を支えています。
見えないところで重要な役割を果たす特殊ガラス
自動車の「眼」に生かされる <特殊ガラス>
「完全自動運転」の実現に向けて普及が進む先進運転支援システム(ADAS)には、さまざまな分野の先端技術が投入されています。その根幹部分を支えるのが自動車の「眼」となる複数のセンサーです。カメラは代表的な装置のひとつだといえます。
このカメラ、撮像機器の内部で重要な役割を担うイメージセンサ用のカバーガラスの開発・製造で、日本電気硝子は30年以上にわたって独自の技術を蓄積し、高いシェアを誇っています。単にイメージセンサを保護するだけでなく光をありのままに伝える高品位ガラス。車載カメラの場合、使用環境が過酷なため、耐衝撃性や耐候性など、より高い信頼性が必要になります。
より高い安全性確保のために、ますます大きくなるガラスの使命
さらに、遠方の自動車や歩行者などとの距離を高精度計測するミリ波レーダーにも先進の特殊ガラスが採用されています。ミリ波をより遠くまで飛ばすためには、回路基板に電気的損失が少ない素材特性が求められます。ADASの安全性確保に必須の性能。こうした厳しい要求に応えることもガラスの重要な使命です。
また、電波ではなくレーザー光を使って距離の計測に加えて、レーザー画像により物体を検知するLiDAR(ライダー)と呼ばれるセンサーがあります。この実用化が進めば、自動車の「眼」の能力は格段にアップします。そのためには放たれる特定の波長の光だけを通す特殊なフィルターが必要になるため、日本電気硝子も「薄膜技術」を駆使し、開発を進めています。完全自動運転のカギを握るともいわれているLiDAR。自動車の周辺に存在する物体が、人間なのか動物なのか物なのかを瞬時に判断する。自動車の「眼」の能力の向上は、そのまま安全性の向上につながります。人には見えないものまで見ることができる「眼」。夜間の自動運転に欠かせないナイトビジョンシステム(NVS)に搭載される赤外線透過レンズの開発も進められています。
遠赤外線透過ガラス
エンジンの排気から燃料の燃焼効率を判断する排気センサー、燃料やオイルの残量センサーなどでも、日本電気硝子の製品は大きな役割を果たしてきました。エレクトロニクス導入が急速に進んでいる自動車技術の分野で、特殊ガラスは各種デバイスを通して数々の先進機能をしっかりと支えています。ここで紹介したセンサーなどの「眼」の役割はその一例に過ぎません。活躍の場はますます広がっています。
電子部品製品情報軽量化による環境性能の向上
快適空間づくり、生産の効率化にも貢献する<ガラスファイバ>
ガラスが生み出すソリューションと自動車の進化の関係。次はエンジンルームを覗いてみましょう。どこにガラスが使われているのか。わかりやすくいうと黒く見える部分です。樹脂の強化材として<ガラスファイバ>が用いられています。
黒く見える部分がガラス繊維強化樹脂。
さまざまなところに採用されていることがわかります。
もともと多くの金属で構成されていた自動車は、エンジンルームも見た目は銀色の金属部品が主流でした。その金属の強度を保持しながら軽量化するために開発されたのがガラス繊維強化樹脂です。強化樹脂は、インテークマニホールドやシリンダーヘッドカバーなどのエンジン部品だけではなく一体成形されるインパネやドアモジュールなど車内外の随所に採用されています。
■複雑な形状を持つ強化樹脂製の自動車部品「インテークマニホールド」
各種構造部材の軽量化は、燃費の良し悪しなど、環境性能にも関わります。
樹脂は金属とは違い、複雑な形状への成形やパーツのモジュール化が容易なため、
車載部品の生産工程の簡素化・効率化にも貢献しています。
また、樹脂は振動を伝えにくいため、静かで快適な車内環境づくりにも役立っています。ウレタン発泡剤を<ガラスファイバ>で包むことで成形の自由度が高まった天井材の採用で、空間を広く確保できるようになりました。
大容量バッテリーを搭載する電気自動車(EV)では、電気絶縁性という点でもカーボン素材などと比較して優位性があります。水素自動車(FCV)の水素タンクは内側のカーボン素材を外側から<ガラスファイバ>で巻くことで耐衝撃性を高めています。水素ステーションのタンクの最外装にも<ガラスファイバ>が採用されています。
こうした<ガラスファイバ>に生かされているのが、日本電気硝子のガラスと有機材料の「複合化技術」です。有機物である樹脂と無機物であるガラスの接合を強くするために、<ガラスファイバ>の表面に特殊な有機材料(集束剤)を均一に塗布する必要があります。この集束剤を徹底研究することでガラスと樹脂を強固に結合することに成功。その結果、自動車部品としての強度、軽量性を備えた強化樹脂が誕生したのです。
■樹脂の強化材として用いられる <ガラスファイバ>
チョップドストランド
チョップドストランドマット
ロービング
世界の市場に安定供給。多様化するニーズにも対応する体制
熱を加えると柔らかくなり、冷えると固まる熱可塑性樹脂に使う<ガラスファイバ>の分野で日本電気硝子は全世界で高いシェアを誇っています。そしてその用途の約7割が自動車向けです。そうした意味で、日本電気硝子は、常に同じ品質の製品を世界中に届けるという供給責任を担っています。数千本の<ガラスファイバ>を束ね、一定の長さに切断する「チョップドストランド」の生産では、マレーシア工場が世界有数の能力を持っています。さらに、自動車生産のBCP(事業継続計画)の観点からより安定した供給能力を確保するため、アメリカ、ヨーロッパへの生産拠点拡充、分散化も進められています。世界中の市場に向けてスピーディな供給を可能にし、日本電気硝子のグローバル展開を支えます。
そして、<ガラスファイバ>は、用途に応じて求められる性能がさまざまな、いわゆるカスタマーグレードへの対応力が求められます。日本電気硝子は、材料設計や素材とプロセスの融合を重視する研究開発で、多様で高度化するニーズにもきめ細かく対応する体制を備えています。
見えるところにもガラス
自動車の夢を広げるディスプレイ用ガラス
電子部品からエンジンルーム。“見えないところ”で、車内環境の快適化にも生かされているガラス。もちろん、“見えるところ”でも大切な役割を果たしています。見るためにあるルームミラーはその象徴といえます。
通常は鏡として使用しながら、ワンタッチで背面に搭載されたモニター画像が映し出される「スマート・ルームミラー」。表面はタッチセンサーとしても機能します。ここには日本電気硝子が得意とする「薄膜技術」が生かされています。ディスプレイや光学フィルターなどの多機能化、高度化をリードしてきた技術です。
ガラス表面に金属や化合物の薄膜をつけることで新たな機能を付加する薄膜技術。例えば、微細な凹凸形状を与えることで映り込みを目立たなくする「防眩膜」。より高い透過率で映像を美しく見せる「反射防止膜」。いずれも高解像度ディスプレイには欠かすことができません。さらに、指でタッチした際、指紋などの付着を抑え、その汚れも容易に除去できる表面処理技術もあります。日本電気硝子は「ガラス+薄膜」の可能性を追求し、多種多様な用途、性能要求に対する高い付加価値の提案から、量産までのプロセスにトータルで対応しています。
また、カバーガラスとして衝撃や傷などから大切なスマートフォンやタブレットを守る化学強化専用ガラスDinorex® (ダイノレックス)など独自の製品も次々に世に送り出しています。製品の品質、精度、これまでの実績はもちろん、大型の生産装置を駆使した安定的な生産能力という点でも、日本電気硝子は、ディスプレイ市場を支えるガラスメーカーとしての地位を確かなものにしています。
夢と可能性に満ちた車載ディスプレイを進化させるガラス
こうした機能や製品は、各種情報を表示し、タッチ操作ができるセンターインフォメーションディスプレイなどへの応用が可能です。樹脂パネルと違い、強く、劣化が少なく、高級感も備えています。日本電気硝子でも、既にヨーロッパ車用には出荷を始めています。
今後、自動運転の進化によりメーター類は高度化し、集中コントロールモニターも求められるようになります。或いは車内に会議や映画鑑賞用などの大型高精細ディスプレイが設置されるような時代が訪れるかもしれません。曲面への柔軟な対応を可能にする技術開発も進んでおり、フロントガラスそのものをディスプレイとして使用するという発想も生まれてきます。夢のある車内空間づくり。ガラスと自動車の関係は、こんなところでも深まっていくに違いありません。
ガラスにさらなる高機能・高付加価値を与える「薄膜」。
ガラス表面に金属や化合物の薄膜をつけることで新たな機能が付加されます
新たな時代に進む自動車技術
社会的使命に技術で応え続ける日本電気硝子
まさに日進月歩、自動車の技術革新は、めまぐるしいスピードで進んでいます。今後、自動運転はもちろん、インターネット通信機能を備え、
コネクテッドカー(つながる自動車)としてICT端末の役割を果たしていくと考えられます。構造的にもシンプルになり、
金属製の部品が減少する中、電子デバイス製品・部品の性能向上を左右するガラスへの要求は高まる一方です。
自動車は “家電化”しているともいわれています。そうした時代の要請に安定した製品供給力、技術力で応える日本電気硝子。
それは社会的使命ともいえます。夢と期待がふくらむ理想的な自動車社会へ。日本電気硝子の未来もまた、可能性に満ちています。