幅広い熱膨張係数のガラスの開発

ガラスの無限の可能性:用途に合わせた熱膨張係数のガラスの提供が可能です

材料の熱膨張とは、温度上昇に伴い、原子の熱振動によって、原子間距離が広がり、物体の長さや体積が変化する現象のことです。熱膨張の指標である熱膨張係数は、温度変化1℃あたりの寸法変化率のことで、この熱膨張係数はガラスの非常に重要な特性の一つです。
ガラスは組成の調整により熱膨張係数を変化させることができ、用途に合わせた熱膨張係数を持たせることが可能です。例えば、熱膨張係数を低くすることで製品の耐熱衝撃性を向上させることができます。また、お客様の製造工程(熱処理工程)においてガラスの熱膨張係数が最終製品の歩留まりに大きく影響を及ぼすこともあります。さらに、当社のガラスは複合体として使用されることも多く、ガラスと金属などの他材料とが高温で溶着されるため、両材質の熱膨張特性が整合していることが必要です。これらのことから、工程温度域および溶着する他材質を意識した熱膨張係数の特性管理は非常に重要です。

半導体パッケージ製造工程に適合する熱膨張係数を持つガラス

写真:半導体用サポートガラス

ガラスはその優れた特性から、半導体パッケージの製造工程において、チップなどをサポートするキャリア基板として用いられます。半導体パッケージはシリコンや樹脂といった異なる熱膨張係数を有する材料を組み合わせたものであり、キャリア基板は半導体パッケージと接合されます。上記の製造工程の熱処理プロセスにおいて、各種構成材料の熱膨張係数の差が大きいと製品に反りが発生してしまいます。この反りの発生は、最終製品の歩留まりに大きく影響を及ぼします。半導体パッケージの材料の組み合わせやプロセス条件により、キャリア基板に求められる熱膨張係数が異なるため、さまざまな熱膨張係数のキャリアガラスが必要となります。
当社では、この熱膨張係数を精密に制御することで、お客様の製造工程に適合したキャリア基板(半導体用サポートガラス)を提供しています。

複合体用途における熱膨張を制御したガラス

当社のガラスは複合体として使用されることが多く、ガラスと金属、セラミックスなどの他材料とが高温で溶着されるため、両材質の熱膨張特性の差異が溶着後の割れや剥がれなどの欠陥につながることがあります。例えば、以下のガラス製品は熱膨張特性を制御することで、各種材料との熱膨張特性の差異を小さくし、封着時の残留応力を低減して破損を防止しています。

  • リードスイッチ用赤外線高吸収管ガラス(STI、SRI): 52Ni-Fe合金やCo-Fe合金
  • UV-C 高透過管ガラス(BU-41): コバール金属
  • UV-C LED用シール材付きリッド : 窒化アルミ

また、さまざまな基板や素子の被覆に使用される当社の粉末ガラス製品は、用途に応じた熱膨張係数を持たせるため、ガラス粉末とセラミックス粉末の組み合わせとブレンド比を制御しています。

写真:赤外線高吸収管ガラス
写真:UV-C LED用シール材付きリッド
写真:被覆・結合・接着用粉末ガラス

コラム:結晶化ガラス

結晶化ガラスとは、特殊な組成を持つガラスを熱処理し、ガラス中に所望の結晶を均一に析出させたガラスです。結晶の種類や量、大きさ、残存ガラスの特性を制御することにより、耐熱性や耐熱衝撃性を向上させたり、強度を向上させたりなど、ガラス単独では得られない特性や機能を付与することができます。
当社の超耐熱結晶化ガラス:ネオセラム®(N-0)はガラス中にβ-石英固溶体という結晶を析出させたもので、β-石英固溶体は温度が上がると縮む負の熱膨張特性を持つ結晶です。この結晶の負の熱膨張特性と残存ガラスの正の熱膨張特性とが温度変化に伴う体積の変化を打ち消し合い、熱膨張係数をほぼゼロにすることができます。
また、析出しているβ- 石英固溶体の結晶のサイズは約30nmで可視光の波長380~780nmに比べて十分小さく、結晶と残存ガラスの屈折率差が小さいため、高い透明性を有し、板厚4mmのN-0の可視光線透過率は87%で通常の窓ガラスとほぼ同じです。N-0は700℃の連続使用が可能な耐熱性と800℃に熱した状態で冷水をかけても割れないほど高い耐熱衝撃性を有しています。
超耐熱結晶化ガラス:ネオセラム®(N-11)はN-0とは異なる温度で熱処理することで、結晶の大きさが約1μmのβ- スポジュメン固溶体という結晶を析出させたものです。結晶のサイズが可視光の波長より大きいため白色不透明となる一方で、N-0よりも耐熱性が向上して850℃での連続使用が可能になります。

図:ネオセラムの結晶化工程
写真:ネオセラム
写真:光ファイバー用カプラーケース・カバーガラス

低熱膨張ガラス(結晶析出における熱膨張制御)

結晶化ガラスの代表的な特性は、急激な温度変化(サーマルショック)に対する強さです。ガラスのコップに熱湯を注ぐと割れてしまうのは、コップの内面が急激に温められて膨張する一方で、外面はすぐに熱が伝わらずに膨張しないため、つまり、一つのコップに「伸びようとする力」と「とどまろうとする力」が同時に働くためです。しかし結晶化ガラスなら、ガラス内の結晶の作用によって熱膨張係数が低くなるため、温度変化による膨張がきわめて小さくすることができます。その結果、「急熱急冷に強い」特性を持たせることができます。
当社の超耐熱結晶化ガラス:ネオセラム®は直火で加熱しながら水をかけても割れないほと高い耐熱衝撃性を持つ結晶化ガラスで、食器から電子レンジのターンテーブルやトレイ、薪ストーブや暖炉の前面窓、オーブントースターのヒーターカバーなど、すでに私たちの日々の暮らしで役立っています。また、調理器トッププレート用結晶化ガラス:StellaShine®は、多くのIHクッキングヒーターやガス調理器に使われています。
他にも、防火ガラス:ファイアライト®は、火災発生時の高温に耐え、スプリンクラーの放水による急冷にも割れないため、火災時の安全と安心を確保します。普通の窓ガラスと同様に透明で、火災発生時には、防火シャッターのように視界を閉ざすことなく避難経路を確保し、消火活動の際は、建物内部の状態が確認できることで迅速で的確な対応を可能にします。

写真:StellaShine®
写真:ファイアライト®

熱膨張係数ゼロを極めたZERØ®

写真:ZERO®

本来は結晶を持たないガラスを熱処理することにより、内部に約30nmという微細な結晶を析出させた結晶化ガラスは、温度が上がると縮む性質を持つ結晶と残存ガラスの膨張が互いに打ち消し合い、熱膨張係数を制御することが可能となります。当社では、組成および結晶化工程の最適化を図ることで熱膨張係数をゼロにしたゼロ膨張ガラス: ZERØ®を開発し、光学機器や光通信、液晶や半導体製造をはじめとした厳密な精度や正確性、寸法安定性が求められる分野などの技術の進歩に貢献しています。

マイナス熱膨張材料

マイナスの熱膨張係数を持った材料は、熱で膨張する素材と組み合わせることで、その膨張分を抑制、もしくは補完(相殺)する材料として使用されています。
マイナス膨張セラミックス基板:CERSAT®は、光通信分野において温度補償が必要な部品のパッケージ材料として使用され、マイナス膨張フィラーは、樹脂と混ぜ合わせることで熱膨張を抑制する効果があります。

写真:CERSAT®
写真:マイナス膨張フィラー